陽キャのお通りだ

留年の理由なんてしてから考えろ

厄年でも大丈夫よ

小学生の頃のことを思い出した。

未だに答えがわからないことがある。

 

 

 

 

中学受験を間近に控えた僕はいつものように塾に行って授業をこなしていた

僕は塾が嫌いで授業が終わったらすぐに帰り、授業が終わる5分くらい前には教材や筆箱を全て閉まって早く終われという顔をするガキだったのを覚えている

 

 

たしか水曜日が算数で、算数が得意だった僕は遅れて行ったり途中で寝ていたりして、暇になると木曜日の社会と理科の宿題を済ませていた

 

中学受験のコースはそんなに人数が多いわけではないので、特に話したことがなくても顔はなんとなくみんな知っている

誰にも自分から話しかけたことはないのだが、何度か話しかけられることがあった

 

内容は大抵宿題がわからないとかどこの小学校から来たの?とかそんな感じで、適当に話して授業が始まるまで時間を潰す。

珍しく早めに塾に行って算数の授業を待っていたとき、女の子が話しかけてきたことがあった。

10分くらい話して算数の授業が始まって、いつも通り授業を流して聞くが、僕は正直小学校が違う女の子と話したことでドキドキしてその女の子がいる方向が気になって仕方なかった。

 

授業が終わって帰ろうとすると、またその女の子が話しかけてきた。

塾は駅前にあって、その女の子は電車で塾に来ていた。僕は自転車だったのだけれど、駐輪場まで女の子は付いてきて、僕が自転車を出すのを待っていた

 

緊張でいつもやっている自転車の鍵を外す行為すら見られている気がしてスムーズにいかない。

 

 

ここまで書いて気がついたのだが、女の子を可愛く想像させてしまっているかもしれないな

普通よりちょい下の感じです。

 

 

駅前で話した。5分くらい

お金を持っているわけでもなかったし、8時半は小学生にとっては深夜なので少し話しただけで帰ったのだ

 

その日の帰りに僕はコンビニに寄ってピノを買ってドヤ顔で帰ったのを強烈に覚えている。コンビニの前でかなりの時間をかけて食べた

多分16個くらい入っていたんだろう

 

 

次の日は女の子と同じ授業ではなかったのだがそわそわしながら授業を受け、いつもより歴史が頭に入ってこなかった

 

次の週の算数の授業終わりにまた女の子に話しかけられ、先週と同じように駅前で話そうと言われた

 

当時の僕には付き合うという発想がなく、恋愛なんて自分に関係があることだとは思っていなかった

でもさすがに何か違う雰囲気を感じ取っていて、女の子が何か悩んでいそうなのは分かったのだ

 

 

 

駅前のドラッグストアの前に僕は自転車を止めて、告白なんてする雰囲気では全くないのだが、何か起こるぞ、と緊張をしていた

 

付き合ってくれと言いたいなら相談したいことがあるとは言わないだろうという予測が今なら立つが、小6の僕は男女が2人っきりで話す場を作る用事は告白しか思いつかなかったのである

 

 

女の子が僕に今日の算数難しかったね、と意味のない話をする

僕は授業を聞いていないので女の子の話全てにそうだね、と返事をしていた

 

しばらくして沈黙があり女の子が何か聞きたそうな顔をした

記憶は曖昧なものらしいので本当はそうでもなかったのかもしれないが、ゴリゴリに補正されているであろう僕の記憶では女の子は言いたいことがあるような表情をしたことになっている

 

 

女の子がねぇと言った。

 

めちゃくちゃ白々しく

ん?なに?

と返す ムカつく顔をしていたに違いない

 

女の子が口を開く

 

 

 

 

 

「厄年って知ってる?」

 

 

 

は?

 

厄年は知ってるけどこの会話を知らないな

 

 

 「厄年って知ってるよ なんか良くないことがある年でしょ?」

小学生のフワッとした知識で応える

 

 

 

 

 

 

「私のお母さんが今年厄年らしくて、受験落ちちゃうんじゃないかって思うの」

 

親の厄年で受験が失敗するなら塾ってなんのためにあるんだろう

生まれた瞬間に合否が決まるじゃないか

 

 

本気で言ってるんだろうか

でも女の子の顔が真剣だった

 

 

僕は優しい言葉をかけた。

「大丈夫、受験は厄年と関係ないよ」

 

自明。

 

 

 

「でも...」

 

「お母さん何歳?」

 

「〇〇歳...」

 

「俺のお母さんも同じ歳だし大丈夫だよ」

「ほんと...!?」

 

僕は母の年齢を知らなかったし今も知らない。

でもとりあえず自分も同じ条件で受験するのだと言うことを伝えたかった

 

母が万が一厄年でも僕の受験には関係ないし、こんな嘘をついたところで学力は落ちない

 

女の子を元気づけたかったのかと言われたら分からない。ただ自分が合格した時、その理由が「親が厄年じゃなかったから」ということにされたくなかったのだ。 

 

その日はどんな感じで解散したのか覚えていない。

頭の中が「厄年...?」で一杯で他に何も考えられなかった

女の子とはそれから話していない

 

その会話からすぐに受験が始まって、授業で顔を合わせることがなくなってたまに自習室で頑張る彼女を見るだけになった

 

 

 

結局受験の時期になって僕は行こうと思っていた中学に無事合格し、塾をやめた。

受験が終われば塾に行く理由はないので行かなかったのだが、一度行く用事があって塾に顔を出した。

 

 

 

彼女は第一志望はダメだったらしいということが塾の自習室の壁に貼られていた合格実績から分かった。

彼女の第一志望にその塾から合格したのは1人だったのだけど、それが彼女ではないことを僕は知っていたから。

 

 

〇〇中(僕の中学)〇名合格!みたいなものが大きく張り紙として塾の外にも張りだされていたから多分彼女は僕が受かったことを多分知っていたと思う。

 

中学のとき、いつだったか忘れが電車の中で知らない制服を着た彼女を見た。

話しかける勇気はないし、話題もないけどなんとなく気になってしまってチラチラと見ていた気がする。他の中学には受かってたんだな、と。

 

 

彼女は僕の最寄り駅の2つ前で降りた

 

 

それから僕に初めての彼女が出来るまでの一年くらいの間、その駅に停車するときに異常に髪型を気にする学ラン野郎がいたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

昨日、大学をサボった。

珍しいことではない。

 

眠いから、今日はやることがあるから、荷物が届く、役所に行く用事がある、、、

色々言い訳をして行きたくない授業は切る。

 

ふと小学生のあの女の子を思い出した。

こんな気持ちだったんじゃないだろうか

僕が興味がない授業に行かない理由を常に探しているように、彼女は受験の不安から逃げるために自分が不利な理由を探していたんじゃないか

 

おそらく小学校では100点しかとったことがなく、塾にも行かせてもらえている自分が受験で落ちた時の予防線が「母親の厄年」なのだ

 

 

 

当時のことを書いていると色々なことを思い出す

 

僕が厄年と受験は関係ないと言ったときの彼女はうれしそうにした。

だけどそのあと彼女は「でも...」と関係があった方が好都合なのだ、という雰囲気を出していた

 

僕は今、授業に行かない理由を探している

大学受験のときも新しい趣味を次々と始めたし色々な受験に関係のない本を読んでいた、楽しかったし知識はついたが第一志望の大学には落ちた。

 

 

女性が占いを信じる気持ちが今ならわかる気がする

自分の能力とは関係のないところで勝負が決まっていてくれれば楽なのだ

仕方ない、運が悪かった、と。

 

 

 

 

今、もう一回「ねぇ、厄年って知ってる?」と聞かれたら僕はどうしたらいいんだろう

厄年と受験は関係ないよという答えは正しいのだけど彼女が求めていた答えだったかはわからない。

 

 

タイムスリップした場合、どう答えよう

今ならどうするだろう

 

正直この質問の対象になった時点で詰みは確定していると思う。

 

 

 

 

二度と話を振られないように、自分よりやばいやつだと思わせるのが一番なんじゃないか

 

 

 

「ねぇ」

 

「え?なに?」

 

「厄年って知ってる?」

 

「知ってるよ、なんか良くないことがある年でしょ?」

 

「私のお母さんが今年厄年らしくて、受験落ちちゃうんじゃないかって思うの」

 

「へーそうなんだ、僕なんて母親がレプティリアンで隙を見て僕を殺そうとしているし、お父さんは地下室で未だに生きているヒトラーをかくまっているんだ。僕が勉強できるようになったのは宇宙人に連れ去られてチップを埋め込まれてからで、先月アップデートしてもらったよ。今日は月に一回の報告の日だから早く帰らなきゃ。バイバイ」

 

 

 

 

小学生の時の返事の方がマシ?

 

あ、そう

 

 

今日調子悪いな

 

母親が厄年なのかな